ジュニアスキーヤーはスキーをするほど下手になる?その② 211
前回は根本的に『運動』と『スポーツ』を
混同してしまっている危険性についてお伝えしました。
スポーツが上達するために必要な
基盤となる運動のスキルが抜け落ちたまま
スポーツのスキルを磨こうと思っても
上手くいかないという事です。
そして厄介なのが
スポーツをたくさんやらせることが
運動をしていると勘違いしていて
その部分に気付けないということです。
その状態ではスキーをすればするほど
スキー上達の道から外れていくことになります。
今回は前回の記事の最後にありました、
運動のスキルを磨かないで
スポーツのスキルばかり磨く環境は
今後も増え続けると書いた
理由をお伝えします。
【理由① 将来を見据えていない結果主義】
必ず私のところでトレーニングを希望する
ジュニア選手の保護者の方にする
質問があります。
それは
『いつまでに、どれぐらいのレベルを目指していますか?』
という事です。
これは決して将来プロを目指さないのなら
意味がないとか、
高いレベルを目指さなければいけない
ということではありません。
目指すべきゴールと道筋をきちんと
考えておかないと、
ゴールにたどり着けない可能性が高いからです。
例えば登山で考えてみましょう。
富士山の頂上を目指す時と
富士山の5合目を目指す時とでは
登るペースや、準備は同じでしょうか?
当然違います。
同じ山(スキーの上達)を登っていても
目標とする期限とゴールによって
登山方法は全く異なるのは
考えれば分かることです。
しかしスキーになると全くその部分が
見えなくなってしまいます。
幼い頃から
この大会で何位になる!
何歳までにこの検定に受かる!
といった様に
目の前の結果ばかりが優先されてしまいます。
決してこの考えが間違いではありません。
あくまでもそこが目標とするゴールであり、
スキーをする目的であるなら正解です。
とにかく小学生のうちまでに
結果を残したいんです!!
そこでスキーはきっぱり卒業!!
という希望であれば、
身体の発育のことや
運動のスキルなんか無視して
ガンガンその競技だけをやらせる事を
お勧めします。
富士山の5合目にいくのに
装備をそろえたり、
ペース配分を気をつけたり、
他の山を登ってトレーニングする必要は
あまりありません。
ただ、いけるかどうかは別にして
頂上を目指すのであれば
明らかに5合目に上る方法では
無理だという事を理解しておいてください
【理由② ジュニア選手たちは気付かない】
このような話をすると
『でもうちの子はどうしても
ジュニアオリンピックに出たいというんです』
『子供が小学校卒業までに
絶対にバッジテスト1級受かりたいと
言っているのですが・・・』
といったご意見が出てくると思います。
それは当然です。
子供は目の前にある結果を
欲しがるに決まっています。
それを否定する必要はありません。
ただ保護者の方は一歩引いた視点で
コントロールして上げる事が重要です。
目の前の結果を意識させながらも
将来を考えたプランニングとケアを
してあげることが重要です。
プランニングとケアなんていうと
難しく感じるかもしれません。
しかしそんなに専門的な知識がなくても、
スポーツスキルばかり磨く環境以外にも
遊びを含めた運動のスキルを磨く環境を
作ってあげる。
いまは結果が出ていなくても
将来的にいい方向に
つながっているから大丈夫だよ
といった安心感を与えてあげる
といったことで十分です。
子供たちは間違いなく
現時点で結果でないと
自分はダメなのかもという
不安にかられます。
保護者の方が何でできないんだ!
練習がたりないんだ!
同じように目の前の結果が最優先であれば
なおさらプレッシャーがかかるはずです。
一番怖いのはいつの間にか、
『自分がそうしたい』
のではなく
『怒られたくないから、
そうしなければ』
といった思考に変わっていくことです。
【理由③ 指導環境への影響】
そもそも指導してくれる指導者や
チームの方針が正しければ
こんなに保護者が大変な思いをしなくても
いいのでは?
と思われるかもしれません。
ではあなたのお子様を練習に参加させる場合、
今日は一日、不整地や新雪をバンバンすべって
とことん山を楽しむぞー!!
という練習と
きちっとポールを張って技術指導をする!
という練習だったら
どちらに参加させるでしょうか?
間違いなく後者の方が多いはずです。
これが保護者の認識がそのまま
指導環境に影響するいい例です。
これはスキーの限ったことではありません。
サッカー教室で一人がゴールによじ登り始めました。
自分の重心をコントロールしながら
身体を上手に使ってよじ登るという
運動スキルは非常に大切です。
登り終わったらジャンプして着地!
というのも各関節を上手く使い
衝撃を吸収する運動のスキルも
鍛えられます。
しかしここでコーチが
よーしみんな、
今日はだれが一番ゴールに
早くよじ登れるか競争だ!!
なんて始めたら
クレームの嵐です。
逆にこの大会で何位になりました、
この練習をしてこれができるようになりました。
という方が喜ばれるので
当然スポーツスキルを磨く方に
方向性は向かっていきます。
もちろん運動のスキルと技術のスキルなど
考えていない指導者も多いかもしれません。
それはこちら側(指導者)の責任でもありますが
そういった原理が分かっていても、
求められているのはその時の結果の為
致し方ないというケースも少なからずあります。
全てが一体となって早い時期から
結果を求めて将来的に潰れてしまう環境を
作り上げているのです。
また指導現場に限らず
メディアからの情報発信も
そういった方向に進んでいくでしょう。
若くして天才少年、少女という内容は
非常に関心が高いため
どんどんそういった情報を
メディアも発信するはずです。
先日天才と話題のサッカー久保選手が
最年少Jリーグデビューを飾り
日本代表戦と同じ規模の報道陣が集まりました。
かれは小学生のころから
名門FCバルセロナにスカウトされて
注目を集めていました。
このような報道を見れば
とうぜん保護者の方は
もっと早い時期から
スポーツのスキルを磨いて・・・
という方向に流れるのも
当然といえます。
メディアが光を当てているのは
ほんの氷山の一角というのを
忘れないでください。
スキージャンプの高梨選手、
卓球の福原愛選手、
フィギアスケートの浅田真央選手
水泳の萩野選手
といったように
幼少期から天才で
結果を残している選手たちもいます。
ただその陰には同じように目指して
沈んでいった想像もできない数の
ジュニア選手がいることには
触れられません。
このような理由からも
残念ながらまだまだ今後も
運動のスキルを磨かないで
スポーツのスキルばかり磨く環境は
今後も増え続けると書いた理由です。
では具体的にどのようなことを意識して
ジュニア選手を育てていけばよいのか?
次回お伝えしていきます